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2015/3/20 - DoTTS Faculty 教員コラム

ラオスの古都・ルアンパバーンを訪ねて(須永和博)

2月10〜19日まで調査のため、ラオス北部のルアンパバーンへ行ってきました。ルアンパバーンは世界遺産に登録されており、イギリスの旅行雑誌Wonderlustでベストシティに選ばれたこともある注目の観光地です。今回私がルアンパバーンを訪れたのは、世界遺産登録後の急速な観光化に伴うルアンパバーンの様々な社会変化を見るためです。

ルアンパバーンはラオス北部のメコン川沿いに位置する小さな町です。14世紀から18世紀にかけて栄えたランサーン王国の王都であったため、ラオスの古都とも呼ばれています。町中には、その時代に建造された仏教寺院が多数あり、今日でも人々の暮らしを支える重要な存在となっています。また、19世紀後半から20世紀前半にかけてのフランス植民地時代に建設された、コロニアル建築やショップハウス(華人の店舗兼住宅)など、フランス植民地主義の影響も随所に見られます。伝統的なラオ建築のなかにも、フランスがもたらした建築的特徴を取り入れたものが少なくありません。

こうした様々な文化要素が織りなす独特の景観が評価され、1995年に世界遺産に登録されました。現在、町の中心部は保存地区になっており、景観を保全していくための様々なルールが設けられております。たとえば、当局によって保存建築に指定されている場合、既存建築の取り壊し等は禁止されており、改修する場合も元の建築的特徴に忠実であることが定められています。また、保存建築に指定されていない場合でも、保存地区内で新規に建物を建てる場合は、周囲の景観になじむよう、指定された建築様式を踏襲する必要があります。

今回の調査では、保存建築に指定されている443の(寺院を除く)建造物の利用状況を調べ、データベース化する作業を行いました。そこから見えてきたことを、以下に紹介したいと思います。

まず、保存建築の利用状況を調べたところ、ホテルなどの観光施設への転用が急速に進んでいることが分かりました。しかし、多国籍な大規模チェーン等の進出はほとんどなく、ゲストハウスや小規模でスタイリッシュなブティック・ホテルと呼ばれる業態が中心です。ルアンパバーンは、景観保全のための建築規制があるため、大規模なホテルの建設は困難です。そのため結果として、大規模ホテルチェーンの流入はほとんどみられず、10〜20室程度の小規模宿泊施設が主流となっているのです。特に保存建築の転用という観点から見て顕著なのは、ブティック・ホテルのような比較的高価格帯の宿泊施設の増加です。

以下は、保存建築を転用しているブティック・ホテルの写真です。

こうした保存建築の転用は、遺産の保全や利用を考える上で興味深いものです。しかし、こうしたブティック・ホテルを運営しているのは地元の住民ではありません。その多くは外国人企業家や、1970年代の内戦下に海外に亡命し、近年ビジネスチャンスを求めて帰還した富裕なラオ人です。つまり、保存建築をブティック・ホテルに転用できる資金やノウハウをもった外部者が観光ビジネスの中心になっているということです。

もちろん地元住民の中にも、ゲストハウスや土産品店、食堂等を通じて観光から恩恵を受けている人も一定数います。しかし、観光開発が進むなか、外部の資本家に土地を売って、保存地区外に移住するという傾向も見られます。

また、以下の写真のように、立地やスペース等の問題から観光施設への転用が難しい保存建築が、廃墟になっているケースもみられます。保存建築を維持するには相応のコストがかかるため、そのコストを負担する余裕のない持ち主が転居したまま、放置されているわけです。

このように世界遺産というブランドが急速化な観光化をもたらし、その波に乗ることのできない住民の一部が保存地区外に移住していくという皮肉な状況が生まれています。観光は地域経済の発展に貢献するとしばしば言われていますが、観光地の現状をじっくり見ていくと、様々な問題も同時に見えてきます。

(須永和博)

 

ルアンパバーンの町並み
朝の托鉢
保存建築を転用したブティック・ホテル(1)
保存建築を転用したブティック・ホテル(2)
保存されずに放置された建築