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2018/2/19 - News&Topics

高橋ゼミ@聖心グローバルプラザ

2年生の新メンバーを迎えて高橋雄一郎ゼミ(移民・難民+パレスチナ研究)では、2月5日から9日まで勉強会をおこないました。難民の少年を主人公にした映画『ルアーヴルの靴みがき』鑑賞や、アメリカ合衆国のトランプ大統領が選挙公約に掲げた「国境の壁」についてのディスカッション、卒業研究のプレゼンテーションなど、充実した内容の5日間でした。フェイスブックのアカウントをお持ちの方は、学生による報告を以下のページからご覧いただけます。

https://www.facebook.com/TakahashiSeminar/

 

勉強会2日目は聖心グローバルプラザBE*hiveでのワークショップに参加しました。聖心女子大学グローバル共生研究所の展示+ワークショップスペースとして2017年にオープンした空間で、常設展「難民・避難民」が開催されています。beehiveはミツバチの巣を意味しますが、ここは「人間存在が育まれる空間」をめざしてBE*hiveと命名されたそうです。あちこちに美術品が配された木の温もりを感じる空間で、賑やかな意見交換をしながらも、人間存在の大切さについてじっくり考えを深めていけそうな場所です。展示は無料で一般に公開されているので、ぜひ、見学をお薦めします。詳しくは以下のサイトに紹介されています。

BE*hive(展示)

 

ワークショップの講師はBE*hive の運営を受託しているNPO法人開発教育協会(DEAR)の小口さんでした。難民クイズ、エピソードから日本に暮らす難民について知る、展示を見て世界の難民の現状を知る、などのセクションを追って、ワークシートに記入し、小グループや全体でディスカッションをしました。

 

難民クイズで世界には6560万人(日本の人口の約半分で、世界ではおよそ113人に1人)の難民がいると聞いて、その数の多さに学生たちは驚いたようでした。また、日本に暮らす難民の方一人一人についてのエピソードを読み、日本で新しい生活を始めるまでの長い道のりについて学ぶとともに、もし自分が同じ状況にあったら、どんなことを感じ、考えるかについて話し合いました。

 

日本はヴェトナム戦争後の1980年代、インドシナ難民を1万人以上、受け入れた経験がありますが、その後は他の先進国に較べて、難民の受け入れにはひどく消極的です(以下の註を参照ください)。政府の政策にも問題はありますが、国民の間で難民への理解が浅く、難民とともに社会を築こうという姿勢が十分でないことも原因の一つだと思います。ゼミや交流文化学科での授業を通して、難民にフレンドリーな社会を実現したいと思っています(高橋雄一郎)。

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(註)

日本政府による難民の受け入れには、(1)条約難民といって、日本に到着後、難民申請をした人を、国連の難民条約に従って受け入れる方法と、(2)第3国定住といって、海外の難民キャンプなどで暮らしている人たちの中から日本に定住したい人を募る方法の2通りがあります。

 

前者、日本で難民申請する人の数は、2015年7586人、2016年10901人、2017年19628人と増えています。しかし難民として認定された人は、2015年が27人、2016年が28人、2017人が20人と、大変少ない数に留まっています。(審査に年をまたいで時間がかかる場合や、結果に不服を申し立て、再審査で難民認定される場合もあるので、たとえば2015年の場合、その年一年間で申請した7586人のうち27人が認定された、というわけではありません。)また、条約上の難民とは認定されなかったけれど、人道上の配慮から日本に在留を認められた人もいますが、こちらの数も決して多くはありません。(2015年は79人、2016年は97人、2017年は45人でした。)法務省が公表しているグラフは(下のpdfファイル)、申請者の増加にもかかわらず、認定される人数は減少していることを示しています。

http://www.moj.go.jp/nyuukokukanri/kouhou/nyuukokukanri03_00700.html

(法務省入国管理局、2018年2月13日)

http://www.moj.go.jp/content/001248677.pdf

 

後者の第3国定住についても、日本の門戸は大変狭いものになっています。日本が受け入れの対象としているのは、ビルマ(ミャンマー)難民のみで、他の地域からの受け入れはありません。ビルマ難民は、パイロット・プログラムがスタートした2010年から2014年までの5年間に、タイの難民キャンプから家族単位で合わせて86人を受け入れました。パイロット・プログラム終了後は、マレーシア滞在中のビルマ難民を年間30人を上限に受け入れています。

http://www.mofa.go.jp/mofaj/press/release/press4_001278.html

(外務省プレスリリース2014年9月26日)

 

日本が難民支援の努力を怠っている、という訳ではありませんが、多くが紛争地やその周辺国に留まることを余儀なくされている、世界で6500万人を超えるとされる難民に対して、上の数字は、あまりにも少なく感じられます。日本以外の先進国では年間数千人から数万人の難民を受け入れていますし、認定率も、条約難民に人道配慮による在留認定を加えても1%程度の日本に較べ、30%から60%程度に達しています。詳しくは(英文になりますが)国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)の以下のサイトを参照ください。

Global Trends – Forced displacement in 2016

 

紛争の続くシリアではおよそ1200万人、国民の2人に1人が難民・避難民といわれています。2015年に就任したカナダのジャスティン・トルドー首相は、シリアからの難民2万5千人の受け入れを選挙公約とし、現在までに4万人以上のシリア難民を受け入れています。https://www.canada.ca/en/immigration-refugees-citizenship/services/refugees/welcome-syrian-refugees.html

カナダは面積こそ巨大ですが、人口は約3500万人で日本の約4分の1しかありません。経済力や人口規模から考えて、日本はもっと難民を受け入れることができそうです。

 

UNHCRの発表では、シリアについで難民の発生が多いのは、アフガニスタン、南スーダン、ソマリア、スーダンの順になっています。木造の老朽船やゴムボートで地中海を渡り、ヨーロッパを目指す難民たちの写真は、メディアでよく目にされていると思います。日本は中東やアフリカの紛争地から遠く、難民が大挙して押し寄せるという状況にはありません。しかし世界各地で紛争は長期化していて、難民たちは行き場を失っています。

 

紛争の終結と故郷への帰還を、難民の多くが希望していると思います。しかし戦火が止んだからといって、すぐに帰還ができるわけではありません。インフラの整備や経済の復興には時間がかかりますし、何よりも敵対していたグループの間で心の和解が成立しなければ、安全で活気のある生活は戻ってきません。その間、たとえばシリア紛争についていえばトルコ、レバノン、ヨルダン、アフガン紛争についていえばパキスタンやイランなどの周辺国に、難民たちは滞留してしまいます。難民生活の長期化は倉庫化(warehousing)と形容されることがあります。国際機関やNGOの支援で生命をつなぐことはできても、故郷に帰ることも、より環境の良い第3国に定住することもままならない、まるで倉庫に入れられた品物のように、取り出される日をひたすら待ち続ける状態です。

 

ソマリアの国境に近いケニアのダダーブというところに、世界最大といわれる難民キャンプがあります。最初に作られたのが1991年といいますから、すでに30年近くがたっています。難民キャンプで生まれ、成長し、大人になった世代も少なくありません。

 

倉庫化は難民たちから人間として生きる尊厳を奪っていきます。仕事を見つけることや自由に移動することなど、本来全ての人間に保障されるべき権利が、難民たちからは奪われています。医療や教育にも、一般の人と同じようにはアクセスできません。病気や障害とともに暮らす人、高齢者、そして子どもなど、弱い立場にある人たちにとって、長期化する難民生活の負担は特に重くなります。自分の希望する学校に進学して、卒業後は職業を選択し、自分の人生を切り拓いていく選択肢が、いちじるしく制限されてしまうのです。

 

難民キャンプなどの運営を、政府や民間が経済的に支援することは、難民の生命維持には役立ちますが、生きる尊厳を約束するものではありません。もし故郷への帰還、郷土の復興がすぐには叶わないのであれば、より環境が整備された国々が難民を受け入れて、医療や教育へのアクセスを提供するとともに、難民たちが職業を選択し、家族とともに人生の再スタートを切れるようにしてあげるべきでしょう。より恵まれた社会の、権利を奪われた人々に対する義務といってよいでしょう。1億2千万人の人口がある日本で、50人に一人、100人に一人の難民を受け入れることは、できないことではないと思います。むしろ積極的に難民を受け入れることで、文化多様性に富んだ、活力のある社会が実現するのではないでしょうか。

 

紛争の続くシリアからの難民受け入れについて、日本政府は昨年、難民という枠ではなく、JICA(国際協力機構)による途上国の人材育成を支援する「技術協力制度」で年20人、文部科学省の国費留学制度を拡充して年10人、合わせて30人を、これから5年続けて受け入れることを決めました。ただし、対象はどちらも専門研究をしている大学院生に限られ、入り口は大変狭くなるようです(『朝日新聞』2017年11月20日朝刊、p.29)。一般の人たちも対象にした、あるいは、より困っている人たちを優先させた難民の受け入れ制度を、日本は率先して作っていくべきではないでしょうか。

ワークショップの後は、聖心女子大学の「カフェ・ジャスミン」で懇親会をしました。