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2016/3/20 - DoTTS Faculty 教員コラム

タイ王国パンガー県・ヤオノイ島を訪れて(須永和博)

2016年2月15日から22日にかけて、タイ南部のパンガー県ヤオノイ島を訪れました。ヤオノイ島は、国際的なビーチリゾートとして知られるプーケット東海岸から高速船で20分ほどの場所にある離島で、住民の多くは小規模漁業に従事しています。今回の滞在では、地元のコミュニティが主導で行なっているcommunity based tourism(以下、CBT)の現状を調査するために、島民の家に1週間ほどホームステイさせていただきました。

東南アジアのビーチリゾートは、もともと漁民の生活の場であった場所を開発したケースが多く、観光開発をめぐって漁民と開発業者の間で様々なコンフリクトが生じてきました。それに対して、ヤオノイ島では外部資本によるリゾート開発が本格化する以前から、住民主導で独自の観光の取り組みを行なってきた場所として知られています。そこで今回私は、漁民の生活と観光開発の共存可能性について考えるために、ヤオノイ島を訪れました。

まず、島民の主たる生業である沿岸漁業について紹介したいと思います。この島の漁民の多くは、ルア・ハートヤウと呼ばれる小型の動力船を所有しており、この船を操って周辺の海域で漁を行なっています。ただ、定員4人程度の小型船のため、陸から数キロ以内の波の穏やかな沿岸部で漁を行ないます。主な漁具としては、エビやカニ、イカ等を捕る刺し網の他、プック・サイヤイと呼ばれる150cm〜180cm四方のカゴ罠を使用したりもします。

ヤオノイ島のCBTでは、こうした漁民の家庭にホームステイをしながら、島の人々の暮らしについて学ぶことができます。また、彼らの船に乗って、周辺の無人島等に行き、シュノーケリングなどを楽しむこともできます。従来、リゾートを訪れる観光客の多くはいわゆる3S(sun, sea, sand)を求める享楽的な志向を持つ傾向が強かったですが、最近では地域文化への強い関心や、地域住民への配慮といった倫理的な意識を強く持つ観光客も増えています。こうした既存のリゾートでは飽き足らない、地域文化への強い好奇心をもった観光客が、この島のCBTに参加しています。

ただし、こうした志向性をもった観光客の数は決して多いわけではありません。しかし、島民の多くは、漁業の他、パラゴムノキ栽培や水田など日々の生業で忙しいので、現在の小規模なマーケットを対象にした観光運営で十分であると言います。むしろ、小規模のままにとどめておくことこそが、これまでの暮らしを大きく変えることなく観光に向き合うことを可能にしているとも言えます。現国王であるラーマ9世(プミポン国王)は、かつて「足るを知る経済(セータキット・ポーピアン)」を提唱し、利益の最大化を追求する資本主義的志向性の危険性を指摘しましたが、ヤオノイ島の人々の観光への向き合い方は、こうした「足るを知る経済」という理念に近いものといえるかもしれません。

島の漁師の家。
ルアハートヤオと呼ばれる船。
仕掛けておいたカゴ罠を引き上げる。
水揚げされた魚。魚を売るのは女性の仕事である。
カゴ罠を作る。