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2022/5/24 - DoTTS Faculty 教員コラム

「海外生活に最も重要な語学スキルとは?」(長崎睦子)

 大学3年生の夏、私は初めてひとりで海外に行きました。約1か月半、カナダのトロントでホームステイをしながら語学学校に通えることになり、それは子供の頃から夢に見ていた念願の海外留学・生活でした。中学時代にブラット・パック (Brat Pack)と呼ばれる若手俳優らによる青春映画にどはまりし、とにかくアメリカの高校に行きたくて仕方がありませんでした。その夢はかないませんでしたが、大学生になり、ようやく夏休みを利用して、語学学校といえども、憧れの海外でのスクール・ライフが送れることになったのです。
 それはトロントに到着して間もなくの語学学校初日に起こりました。アジア、南米、ヨーロッパの様々な国から、多くの同年代の若者が英語を学びに来ていて学校は活気に溢れていました。緊張と興奮の中、拙いながらも、どうにか先生やクラスメートと最低限の意思疎通を図ることができ、なんとかなるだろうと、その日は、これからの学校生活に期待を膨らませながらホームステイ先へと帰りました。帰宅すると、家には鍵がかかっていましたが、ホスト・ファミリーから鍵をもらっていたのを思い出し、その鍵で玄関ドアを開けました。すると開けた瞬間、
 「ブーブーブー」とブザーのような高くて大きな音が響き渡りました。しばらく何が起こったのか理解できずに呆然としましたが、すぐに、玄関横の壁にあるセキュリティ・システムのような機械が赤く点滅していて、そこから大きな音が出ていることが分かりました。
 「えー!!!どうするん???」システムについて全く聞いておらず、もちろん、止め方は分かるはずもなく、ただただ、やばそうな予感がしてどうしようかと焦っていると、音は進化し、今度はサイレンのような「ウゥーーー」という音へ。しかもその音は外から聞こえてきます。急いで外に出てみると、ガレージの上についた赤いランプが点滅し、勢いよく鳴り響いています。「不法侵入者と間違えられたどうしよう!!」と、パニック状態で家の中に駆け込み、涙目でリビングに身を潜めていると、今度は玄関から“Is anyone here?”という声が。恐る恐る玄関をのぞき込むと、そこには警察官(らしき人)が…
 あの時ほど、英語で状況を説明できるスキルの必要性を感じたことはありません。大学卒業後、アメリカの大学院に留学した時も、大学や寮、旅行先で、ちょっとしたハプニングが結構ありましたが、一番必要だと感じたのは、何かが起こっても、その状況を英語で説明できる力でした。文化人類学者エドワード・T・ホールは、コミュニケーション・スタイルには、その場の状況や人々が前提として共有している知識に頼る高文脈 (high-context) 型と、頼らない低文脈 (low-context) 型があると指摘しています。日本は、高文脈型で、メッセージを遠回しに伝えたり、話し手の行間を読むコミュニケーション・スタイルである一方、アメリカは低文脈型で、はっきりと明確にメッセージを伝えると言われています。日本にいると、困ったときは、何も言わなくても周りが手を差し伸べてくれることがありますが、アメリカではそうはいきません。でもそれは決して不親切なわけではありません。何か困ったことがあっても、事情を説明すれば、みな聞いてくれ、明確にどうしたいかを伝えると、協力してくれたり助けてくれたりしました。
 ホームステイでの話に戻ると、実は、ブザーが鳴り続けている間、外出中だったホスト・ファミリーから電話があり、セキュリティ・システムを止める方法を説明してくれていました。でも、残念ながら、当時はその説明(英語)が理解できなかったんです…。そういう意味では、説明する力と同様に(それ以上に)、まずは聞く(理解)力が大切かもしれませんね! 

トロント:
多様な文化的背景を持つ人々が共存する都市。この写真は、留学した年齢(21歳)と同じ年月を経て、21年後に再び訪れた時に撮ったもの。セキュリティ・システム事件(!?) でホストファミリーとは一気に距離が縮まり、翌年さらに10カ月間ホームステイをさせてもらいました。21年後に再び訪れたときは涙の再会でした。
ケンジントン・マーケット:
ダウンタウンにあるケンジントン・マーケットでは、多様な文化に触れることができます。
セントローレンス・マーケット:
同じくダウンタウンに位置し、ここではカナダの様々な食が楽しめます。