2023/12/5 - DoTTS Faculty 教員コラム
ミュージアムと多様性のリテラシー(山口誠)
獨協の学生証で、ピカソやモネやゴッホの名画を、無料で観れます!
エジプトのミイラも、世界遺産に登録された建築も、明治時代の無声映画も、はたまた恵比寿の写真美術館も、無料で観れます!
・・・ミュージアムなんて興味ない? 絵をみても面白くない? たしかに。
いわゆる「名画」や「名作」をみればわかる、感動する、などの体験は、自然にできるものじゃない。それは「社会的・文化的に作られた特殊な行動」であり、ふつーは絵をみても感動するわけもなく、特定のリテラシーが可能にする体験かもしれません。
だから、裸体の銅像をみて雷に打たれたり、ぼんやりした油絵をみて感涙する必要なんて、無いかもしれない。もっというと、美術館も博物館も、行かなくてもぜんぜん生きられるし、なんだか面倒くさい。
・・・そうかもしれませんが、面白い/面白くないかを一刀両断で決めちゃう「わたしの価値観!」一つだけで生きていくより、わざと視野を広くとって、世の中にたくさんある「思い」や「想い」を感受できるようになると、この世界は実に「いろいろだなあ」とみえてくるかもしれません。
その「感受の可能性(response+ability)」を育てていくことができれば、いろいろなことに興味がわき、いろいろなことが自分のこととして観えてくる、「多様性のリテラシー」を修得することができる、と考えます。一つの考え方や視点にこだわらずに、多様に楽しむことができるリテラシーを身に付けることは、ぜひ大学生活で取り組みたいテーマです。
いいかえれば、多様性(ダイバーシティ、diversity)にもリテラシーがあり、多様性を読み解く能力だけでなく、それを自ら実現する能力を身に付けるには、やはり一定のトレーニングとそのための時間が必要です。
多様性とは「状態」ではなく、「過程」だからです。
そこで、ミュージアムの出番です。ここには古今東西の多様な人たちの「表現」が、わたしたちの訪問を待っています。どこのミュージアムでも、どうしても「偏り」は生じますが、それでも選りすぐりの作品や資料や思想たちが、たくさん集まって訪問者を待っています。
そして大小の「出会い」も、きっと待っています。
それでもミュージアムが苦手な理由として、何がよいのかわからない、どうすればよいのかわからない、そもそも雰囲気が重い、などがあるかもしれません(この小文を書いている人間が、ずっとそうだったので)。
それならば、たとえば(1)まずは入場料が安いか無料の常設展を訪れ、(2)気楽な散歩のように館内をかるーく一周して、(3)「気になった作品」を2つか3つほど選んでおき、(4)出口に着いたら館内を引き返して「気になった作品」の前にもどり、「なぜ自分は気になったのだろう」「あの作品とこの作品と、自分が気になる共通点はなんだろう」「作家やテーマや時代や地域に、共通点や似ている点はあるのかな」など、じっくり観ながらいろいろ考えてみると、何か思い浮かぶかもしれません。
もちろん、毎回何かが思い浮かぶわけもなく、また残念ながら気になった作品が一つも無い場合もあります。たとえばプロの野球選手でも、10回打席に立って2回か3回ヒットすればよいほうで、まして何試合も連続してヒットが出ないこともあるため、わたしたちが1回や2回ぐらいミュージアムに行ってワクワク・ゾクゾクする体験をするのはむずかしく、やはり一定の時間とトレーニングが必要と思います。
それでも数回、あるいは数か月、ミュージアムめぐりを続けていると、きっと「お気に入りの作品」が現れ、そして自分が好きな「表現」が観えてくると思います。それは大切なリテラシーのはじまりであり、その多様化の始動です。
世界にあふれるさまざまな「表現」を楽しみつつ、自分の「好き」を理解して育てていくことができれば、さらに多様性を楽しみ、そして自ら実践できるようになる、と思います。どっかの大学の、どっかの学科の「思い」や「想い」、つまり「思想」みたいで、恐縮です。
さて冒頭に書いた、獨協の学生証でミュージアムの展示を無料で観れる特典制度とは、ミュージアムによって名称が異なるのですが、だいたい「キャンパスメンバーズ」と呼びます。その詳細は、次の獨協大学のサイトをご覧ください。
獨協大学 > (右上の)MENU > 学生生活 > 美術館・博物館等の利用特典制度
https://www.dokkyo.ac.jp/campuslife/museum/
「獨協大学父母の会」という、在学生の学園生活を充実させるために活動してくださっている保護者の方々の会があり、その助成事業として、国立・都立・公立のミュージアムの特典会員制度に加入しています(ありがとうございます!)。
常設展ならほぼ無料、特別展や企画展なら割引料金で、多くのミュージアムに行けます。
これがすごいラインナップで、たとえば、以下の通り。
東京国立近代美術館 (本館)
東京国立近代美術館 (工芸館)
国立西洋美術館
国立新美術館
国立映画アーカイブ
東京国立博物館
国立科学博物館
筑波実験植物園
江戸東京博物館(2024年は建替閉館中)
江戸東京たてもの園
東京都美術館
東京都現代美術館
東京都写真美術館
東京都庭園美術館
東京芸術劇場
東京文化会館
国立劇場(2024年は建替閉館中) など
「なんだー、無料なのは常設展だけか」と思わないでください。
たとえば獨協大学前駅から直通で30分、上野駅で下車して上野公園を訪れれば、西洋美術館(セイビ)、東京国立博物館(トーハク)、科学博物館(カハク)、東京都美術館(トビ)などなど、「キャンパスメンバーズ」を活用できるミュージアムがたくさんあります。
そのうち西洋美術館(セイビ)へ行き、前庭にある「考える人」などロダンの彫刻を観つつ、チケット売り場で獨協大学の学生証をみせると、常設展のチケットを無料で発券してくれます。フランスの建築家ル・コルビュジエが設計した本館(世界遺産!)に入ると、常設展だけで数百点の絵画や彫刻を観ることができます。軽く館内をまわっても30分から1時間ぐらい、ちゃんと観たら1日では回れないほど、常設展の内容は充実しています。
これが無料です。そして、そんなミュージアムが大学から1時間以内の場所に、たくさんあります。だから気負わず、むずかしく考えず、できれば何度でも繰り返しいろいろなミュージアムを訪れて、大学生らしい「多様性のリテラシー」の体験を楽しんでください。
常設展で展示される作品はときどき入れ替えられて変わりますし、そして観るわたしたちも、さまざまに変わっていきます。そうしてたくさんの「出会い」がある移動の体験、すなわちツーリズムをミュージアムでも実践して、さらにリテラシーを深めていってください。
いろいろなミュージアムで、獨協の学生証を活用して、よい「出会い」を!
追記 A棟1階(図書館入口の横)に、開催中の展示会などのポスターやチラシがあります。ぜひ空きコマなどに立ち寄って、次のツーリズムを計画してみてください。