2022/7/21 - DoTTS Faculty 教員コラム
セミが鳴いています、セミが泣いています(北野収)
雨の日が続きましたが、ようやく本格的に夏に入ったようです。蝉の鳴き声が、より一層、周囲に染み入るようになりました。さて、セミ(蝉)について少し記します。小学生低中学年の頃、私は近所で「虫博士」と呼ばれていた程の虫好きでした。まだまだ東京の西部には、雑木林、田んぼ、畑、川などが今では想像がつかない程豊かに残っていた頃の話です。私は、夏は殆ど林のなかで過ごしていたといっても過言ではないでしょう。遠い昔、1960年代のことです。東京の多摩地区の雑木林は、バブル期の市街化区域内の宅地並み課税政策によって、一瞬で消滅しました。
さて、セミの世界にもそれぞれの生存戦略と「掟」があります。大きいセミ、小さいセミ。大きな音を出すもの、そうでないもの。要は、繁殖力の強いもの、そうでないもの。ここでは、便宜的に強いセミと弱いセミと呼びます。
盛夏の主役、アブラゼミやミンミンゼミは強いセミではないでしょうか。大きな音を出し、遠くまで声が届きます。オスのセミが鳴くと、メスのセミが寄ってきます。セミは繁殖のために鳴いているのです。7年もの間、土の中で過ごし、最後の7日間程、地上に出てきて、鳴いて子孫を残し、すぐ死んでしまう訳です。特にアブラゼミは数の上でも他を圧倒しています(関東地方の話)。これらのセミは主に日中に活動(鳴くこと)します。繁殖力が強いセミたちです。
では、弱いセミはどのようにして強いセミと棲み分けをするのでしょうか。それは、強いセミと対抗することをあえて避けるという生存戦略です。例えば、ヒグラシ(カナカナゼミ)は盛夏のセミですので、アブラゼミと活動時期が完全にダブります。ヒグラシは、夜明けと夕暮れのごく短い時間帯に鳴くことによって、アブラゼミやミンミンゼミとの競合を避けています。私は、ヒグラシの声が一番好きです。夏の夕暮れの風情には欠かせないのが、ヒグラシの物悲しい声です。関東地方では一番小さいセミであるニイニイゼミは、6月から7月にかけて活動します。ですので今年は、ニイニイゼミはそろそろ終わりになります。ツクツクボウシは8月末~9月にかけて活動します。これらの小型のセミは、時期をずらすことによって、強いセミとの競合を回避します。
ですので、6月になってニイニイゼミが鳴き始めるともうじき夏がやってくる」とワクワクします。お盆明けからツクツクボウシが鳴き始めると、「もうじき夏が終わる」と寂しい気持ちになるものです。そして、9月に入るとアブラゼミ、ミンミンゼミ、ヒグラシはいなくなり、ツクツクボウシ一色になります。ツクツクボウシが終わると、秋本番です。
こうしたセミの生態に大きな異変が起きています。ヒグラシがめっきりいなくなりました。それは、街灯の整備や24時間営業の店が増えたことにより、夜でも明るくなってきたので、夜でもアブラゼミが24時間鳴くようになったからではないでしょうか。つまり、ヒグラシは淘汰されてしまうのです。私が3年前まで住んでいた東京小平市の玉川上水の雑木林の側道に、子どもの通学の安全の観点から、街灯が設置されました。当然、これはヒグラシには不利に作用します。また、古い雑木の切株も安全の観点から撤去され、桜の木に植え替えが進んできました。これも生態系に影響します。かつて、普通に見られたカブトムシとクワガタのうち、クワガタが急速に絶滅していってしまいました。なぜならカブトムシは土の中で育ちますが、クワガタはクヌギやコナラの古木(朽木)の中で育つからです。ちなみにカブトムシは夏に産卵し、翌夏には成虫になります。クワガタは産卵後、古木の中で4-5年幼虫・蛹として過ごします。つまり繁殖力の点で、クワガタの方がカブトムシよりも圧倒的に脆弱なのです。デパートでカブトムシよりもクワガタの方が遥かに高い値段で売っているのは、当たり前のことです。
さて、セミの話に戻ります。ヒグラシの衰退とは別に気になることは、クマゼミの北上です。私が小学生の頃、暗記する程、熟読した昆虫図鑑の「クマゼミ」の項には、「神奈川県以南に生息、北限は湯河原」と記されておりました。実際、私が住んでいる東京の街でクマゼミの声を聴いたことはありませんでした。湯河原と和歌山に伯母・叔母がおりましたので、夏休みに訪問することがありました。東京の子どもにとって、クマゼミの声を聴くことが出来たのはそういう特別な夏に限定されていました。しかし、今では埼玉県内でもクマゼミの声を時折、耳にすることがあり、愕然としています。クマゼミの生息地域の北上です。その理由は、温暖化なのでしょうか。私には分かりません。
以上、昆虫と環境変化について思うところを記しました。私たちの利便性と引き換えに、ヒグラシ、クワガタが消滅しつつあることを覚えていて欲しいです。
高校生の皆さんは、セミの鳴き声を聞きながら受験勉強でしょうか。私(北野)は、実は農学者です。環境問題や食料農業問題に関心ある人も、是非、交流文化学科に来てほしいです。オープンキャンパスでお待ちしております。