2026/2/6 - News&Topics
北海道合宿報告2:アイヌ語復興へ向けた取り組み
イランカラプテ。これはアイヌ語のあいさつで、近年北海道内でよく聞く言葉だ。例えば、JRの列車や一部の路線バスでは、アイヌ語の車内放送が流れている。アイヌ語はユネスコにより「消滅の危機にある言語」とされているが、その一方で、復興のための様々な取り組みも道内各地で行われているのである。今回の合宿では、その現状や課題について考えた。
私たちが訪れた平取町二風谷は、その取り組みが活発に行われている地域の1つである。 以下では、私たちが見学・体験した「二風谷アイヌ語教室子どもの部」とニュージーランドのマオリの人々が考案した言語習得法「テ・アタアランギ」を用いた勉強会の様子を紹介したい。
講師は、平取町教育委員会の職員である関根健司さんだ。兵庫県出身の関根さんは、二風谷に住むようになってからアイヌ語を勉強し始め、市販の教材や公開されている音声資料などを用いて、ほぼ独学でアイヌ語を習得したという。
(1) 二風谷アイヌ語教室子どもの部
参加者は小学生が中心だが、一部中学生も参加しているとのことで、私たちが訪れた際には、小・中学生の男女7名が教室に集まっていた。まず、アイヌ語によるラジオ体操から始まった。子どもたちが口ずさみながら体を動かす姿を見て、これまで何度も経験してきたはずのラジオ体操だが、言葉が異なるだけで、まったく新しいものに触れているように感じた。
ラジオ体操が終わると、関根さんの弾き語りに合わせてアイヌ語の歌を歌ったり、早口言葉に挑戦したりして、子どもたちは終始楽しみながらアイヌ語を学んでいた。最後に、アイヌ語版の「だるまさんが転んだ」が行われた。アイヌ語版では、だるまさんはコロポックル(アイヌの伝説に登場する小人)で、「コロポックル ハチリ(転んだ)」となる。また、鬼役が「コロポックルがマ(泳ぐ)」と言うと、参加者は泳ぐ真似をしなければならないなど、「転んだ」以外の言葉も使う。マの他にも、エウォンネ(顔を洗う)、ポリピ(ぴょんぴょん動く)など、様々なアイヌ語が使われてきた。どの単語も初めて耳にした私にとっては、難しく感じられたが、迷いなく動く子どもたちを横目で見ながら取り組んだ。
アイヌ語教室への参加を通して、「勉強」ではなく、歌や遊びなどを通じて、自然に言葉を覚えていく子どもたちの様子が伝わってきた。
(2) 子どもたちとの沢歩き
子どもたちのアイヌ語教室では、月1回野外学習も行われている。野外での活動を通じて、周辺の自然環境や関連するアイヌ語を学ぶといった意図があるようだ。幸運にも、私たちの滞在と野外学習の日が重なったので、一緒に参加させていただいた。
当日は、教え子のお母さん方も含め、約15名が集まった。関根さんを先頭に沢を歩いていく。途中、狸を見かけたり、ヤマメやウグイといった魚を捕まえたりする場面もあった。採った魚は、皆で調理して昼食に食べた。
自然に触れながら生き生きと活動する子どもたちの姿を見て、教室の中だけでなく、周囲の自然環境との関わりのなかで学ぶことの大切さがうかがえた。

写真1:沢歩きの様子1

写真2:沢歩きの様子2

写真3:昼食の準備

写真4:沢歩き後の昼食
(3) テ・アタアランギ
テ・アタアランギとは、マオリ語習得のために考案された言語学習法だ。他の言語を用いず、目的言語のみで学ぶ点が特徴である。二風谷では、12年ほど前からテ・アタアランギを活用したアイヌ語勉強会が行なわれているという。
私たちが見学した日には、関根さんの他3名が参加していた。まず各人が近況を語り、それに対して質問を投げかけていくといった形で進められる。「アイヌ語を使う」という点を除けば、私たちが普段行っている雑談とさして変わりはない。途中分からない単語があると、関根さんが助け舟を出したりする場面もあったが、アイヌ語だけでテンポよく会話が展開していく様子が印象的だった。
その後、私たちも実際にテ・アタアランギを体験させていただいた。初学者向けの学習では、長さや色の異なる棒(ニラシ)が用意され、その棒を使ってアイヌ語の語彙を学んでいく。今回学習した語彙は、「クンネ(黒)」「フレ(赤)」「レタラ(白)」、「シネプ(1)」「トゥプ(2)」「レプ(3)」、「エンコレヤン(ください)」「エチコレナ(与える)」の8単語だ。途中で混乱し、分からなくなってしまう場面もあったが、関根さんや周囲の参加者に助けられながら、最後までやり遂げることができた。
テ・アタアランギでは、「他の言語を使わない」だけでなく、「文字を読まない・書かない」ことも基本ルールとなっている。これまで私が経験してきた語学学習は、日本語を介して学習することが多かったため、はじめは戸惑いを感じた。しかし、前提となる知識がほとんどない言語であっても、その言語だけで学習が可能であることを身をもって理解することができた。また、これまで書くことを重視してきた私にとって、文字に頼らなくても言語を学ぶことができるという気づきは大きな収穫であった。
(4) まとめ
関根さんは、アイヌ語復興を実現するためには、アイヌ語を使うことが必要不可欠な状況を社会の中に作り出していく必要があると考えている。そんな関根さんが目標としているのは「アイヌ語を北海道の公用語にする」ことである。その実現に向けて、日々活動を続けているという。短い時間ではあったが、実際にアイヌ語学習を体験させていただいて、日常の中でアイヌ語を使う頻度を増やしていくことの大切さを私自身も体感することができた(3年・佐藤希美)。
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