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2026/2/6 - News&Topics

北海道合宿報告1:ミュージアムの可能性

 須永和博研究室(文化人類学・観光人類学)では、2025年9月に北海道白老町および平取町を訪れ、アイヌ文化伝承の現状や課題について学ぶ機会を持ちました。少し遅くなりましたが、3回にわたってゼミ生による報告を掲載します。初回はミュージアムがテーマです。

 北海道にはアイヌ民族の文化や歴史を紹介するミュージアムが複数ある。今回の合宿では、国立アイヌ民族博物館と平取町立二風谷アイヌ文化博物館を訪れ、アイヌ文化伝承や発信におけるミュージアムの役割について考えた。

(1) 国立アイヌ民族博物館

 2020年7月に開館した民族共生象徴空間(ウポポイ)内にあるのが、国立アイヌ民族博物館である。私たちは合宿初日に訪れ、学芸員の方に解説していただきながら展示を見学した。以下では、同博物館の特徴を3つに分けて紹介したい。

 まず1つ目は、アイヌ語を第一言語としていることだ。各種表示や展示解説文は、原則としてアイヌ語を先頭に表示されている。これらは、各地のアイヌ語伝承者の方々が、研究者や有識者とペアを組んで制作されたという。館内の展示解説文は、アイヌ語を復興していくための手段ともなっているのである。

写真1:アイヌ語の案内

写真2:アイヌ語の展示解説

 2つ目は、復元や複製による新しい資料が多いという点である。ミュージアムといえば、古い資料が展示されているイメージがあるかもしれないが、国立アイヌ民族博物館では職員やアイヌ工芸家が制作した民具や工芸が多く展示されている。これには技術の伝承という意図がある。例えば、樺太アイヌが使っていた子グマのつなぎ杭(トゥクシシ)がある。トゥクシシは、製作技法の伝承が途絶えてしまっていたが、研究者とウポポイ職員が調査・研究した上で復元したという。このように製作技法が途絶えてしまったものも含めさまざまな民具を復元・複製することで、技術の伝承につながっているのである。

写真3:クマのつなぎ杭(トゥクシシ)

 3つ目は、触って学べる「探求展示」と呼ばれる取り組みが行われていることである。探求展示コーナーには、魚の皮で作られた衣(チェプル)や、オヒョウの木の皮を作って織られたアットゥシ織の衣、サケの皮で作られた靴(チェプケレ)のミニチュアが置かれている。直接触れるよう、ガラスケースには入れられていない。サケ皮の靴を持ち上げてみると、靴底に背びれがついていた。これは滑り止めのために、わざとそうなるように作られているという。縫い目は、シカのアキレス腱を使って縫うそうだ。このように、実際触ってみることで、アイヌ工芸のより細かい部分まで理解を深めることができるし、記憶にも残りやすい。

写真4:サケ皮靴(チェプケレ)

 以上3つの特徴から、ミュージアムがアイヌ文化の復興や伝承の場になっていることがうかがえた。

(2) 平取町立二風谷アイヌ文化博物館

 続いて訪れたのは、平取町立二風谷アイヌ文化博物館である。同館の展示資料は、2つに大別できる。まず、アイヌ民族初の国会議員になった萱野茂さんが自ら収集した(二風谷が立地する)沙流川流域のアイヌ民具で、その多くは重要有形民俗文化財に指定されている。もう一つは、地元のアイヌ工芸家の方々の作品である。伝統的工芸品に指定されている「二風谷イタ」や「二風谷アットゥシ」の他、現代アートのような作品も展示されている。同博物館では、沙流川流域のアイヌ文化や地元工芸家の活躍の機会を提供するなど、地域に立脚した博物館運営に取り組んでいるのである。

写真5:伝統的工芸品に指定されている「二風谷イタ」

写真6:地元工芸家の作品

 同博物館は、「地域に開かれた博物館」というコンセプトを掲げている。その特徴が顕著にみられるのは、毎年1回開催される特別展である。特別展では、地域住民と協働で、地域に埋もれていた歴史や記憶を掘り起こし、紹介するといった試みが行われている。

 私たちが訪れたときには、「二風谷の記憶―くらしと観光」展が開催されていた。地域住民に写真提供を呼びかけ、昭和の観光ブームの頃の記憶を掘り起こすという展示である。展示されていた写真から、観光ブームで賑わっていた当時の様子をうかがい知ることができた。
 特別展の初日には、多くの写真を提供した地域住民が来館したという。観光客に向けたアイヌ文化発信にとどまらず、地域の人たちにとっても意義のある展示を制作するという、地域に開かれたミュージアムを作っていくという姿勢が伝わってきた。

写真7:特別展の様子

 私は2つの博物館を訪れて、それぞれのミュージアムでアイヌ文化や地域の歴史や記憶を次世代へ伝えていくための取り組みを知ることができた。国立アイヌ民族博物館では、アイヌ文化伝承・復興を重視した研究や展示が行われている。また、平取町立二風谷アイヌ文化博物館は「地域に開かれたミュージアム」として、地域との協働を重視し、地域の記憶を掘り起こし紹介することや、地元の工芸家に活躍の場を提供する取り組みが行われている。このように、ミュージアムは多角的な機能を持っていて、コンセプトによって伝えたい対象はさまざまである。今回の合宿では、複数のミュージアムを訪れて比較することで、その可能性について考えることができた(3年・島舞帆)。