2026/2/4 - DoTTS Faculty 教員コラム
世界の家屋からみる文化の多様性(須永和博)
先日、バングラディッシュの建築家マリーナ・タバサムの展覧会を見てきました(「TOTOギャラリー・間」で2月15日まで開催中)。世界最大のデルタ地帯「ガンジス・デルタ」に暮らす人々に、可動式住居を提供するプロジェクトを牽引してきた建築家です。

写真1: マリーナ・タバサム・アーキテクト展
バングラディッシュは、ヒマラヤ山麓から流れ出る水によって形成された河川が縦横無尽に流れています。こうした自然環境は肥沃な大地を人々に提供する一方で、雨季には洪水や高潮などの災害をもたらします。常に災害と隣り合わせな生活を送る人々に対して、タバサムは「クディ・バリ」と名づけられた可動式住居を提供してきました。クディ・バリは、1) 分解可能で軽量であること、2) 地元で入手可能な竹材を使用していること、3) 地元住民が組み立て可能であること、4) 軽量だが強度があり、台風にも耐えられること、などの特徴があります。

写真2: クディ・バリ
日本では、高度な耐震技術で強い建物をつくることが防災の基本です。いわば、高度な技術で自然を制御することで、防災を実現しようとしてきました。それに対して、バングラディッシュのデルタ地帯に暮らす人々は、移動可能で、組み立て容易な住宅を作ることで、災害に向き合ってきたのです。災害研究では、近年レジリエンスという言葉がよく使われます。被害からの回復力のことです。タバサムが発案した「クディ・バリ」は、災害多発地域に暮らすバングラディッシュの人々にとって、まさにレジリエントな住宅として受け入れられてきたと言えるでしょう。
家屋は、風土や文化と密接に結びついています。世界各地の家屋のあり方を探っていくと、物事の判断基準が、たくさんあることに気づかされます。異文化を学んだり、海外に行くことの意義の一つは、自分の判断基準が唯一のものではないと実感することにあります。
そんな経験をしてもらうべく、筆者は、授業(エスニックツーリズム論)の一環で、毎年野外民族博物館リトルワールド(愛知県犬山市)を訪れています。同館には、世界各地の家屋が移築展示されており、「家」を切り口に民族文化の多様性や普遍性を学ぶことができます。
たとえば、下の写真はサモアの伝統的住居です。見ての通り、壁がなく、中が丸見えです。プライバシーはどうなっているんだろう?大事なものを盗まれることはないのだろうか?そんな疑問が浮かびますね。

写真3: サモアの伝統家屋
しかし、長年サモアでフィールドワークを行なってきた山本真鳥さんによれば、持ち物を人目にさらしておくのには「効用」もあると言います。つまり、人々は誰が何を持っているのかよく分かっているので、村の中では大事なものが盗られることはないのだそうです(山本 1999:180-181)。また、サモアの人たちにとって、すべてのものを公開することは、彼らの大切なモラルでもあると言います。なんでも「分け合う」ことを大切にするサモアの人たちにとって、何かを隠して独り占めすることは、モラルに反する行為です。つまり、公開こそが善なのです(山本 1999:182-186)。このように、壁のない家は、サモアの人たちの生活哲学と密接に結びついています。プライバシーを守るということは、どこでも通用する「当たり前」ではないのですね。
もっとも現在のサモアでは、西欧式家屋の普及により、このような家屋に住んでいる人はおらず、伝統的家屋は村の集会所のような公共建築でしか見られないそうです。そのため、建築技術や知識の伝承が課題となっています。
リトルワールドの展示家屋は、現地の人々を招聘し、協働で建てられたものです。展示制作が技術や知識の継承につながるようにと、リトルワールドでは、若手とベテランの職人双方を招聘することを基本方針としているそうです。博物館は、技術や知識の伝承の場でもあるのです。この記事を執筆している2026年2月現在は、北海道平取町から招聘した方々により、アイヌ民族の伝統的家屋(チセ)が建設中です。
エスニックツーリズム論では、博物館と展示される側の人々の協働から、文化伝承の場としての博物館の可能性についても考えます。時間もお金もかかりますが、五感を使って学んだ経験は記憶に残ります。興味のある人は、ぜひ!

写真4: カナダ先住民トリンギットの家屋

写真5: インドネシア・バリ島の家屋

写真6: ドイツ・バイエルン州のフレスコ画

写真7: 南アフリカ・ンデベレの家屋
【参照文献】
タバサム、マリーナ2025『レジリエント・ランドスケープ─マリーナ・タバサム』TOTO出版.
山本真鳥1999「ポリネシア首長制社会 西サモア」佐藤浩司(編)『住まいはかたる』学芸出版社、pp.171-188.