2023/4/17 - News&Topics
授業紹介「交流文化の世界」
交流文化学科の一年生は少人数(20人から25人ぐらい)のクラスで基礎演習(週1回)、英語(週5回)、プラス1言語(週3回)と、一学年全員(100人から120人ぐらい)で一緒に受ける入門・概論的な講義科目を週2回、そのほかに全学共通カリキュラムの中から自由に選択する授業を履修します。ここでは、一年生全員が一緒に受ける入門科目の中から、学科の専任教員が毎週交替で授業を担当する「交流文化の世界」からいくつか、今年の授業内容を紹介していきます。
「多文化共生と日本の学校文化」
4月12日授業実施、担当教員:高橋雄一郎(コース・コーディネーター)
獨協大学の授業では各自のスマホから投票をしたり、意見や質問を投稿できる「レスポン(respon)」という機能が使えます。この日の授業は一年生が入学したばかりの4月12日で、授業がスタートして3日目だったので、大学生活が「①超楽しい、②楽しい、③楽しくない」かをレスポンで聞いてみました。結果は、①の「超楽しい」が15%、②の「楽しい」が80%、③の「楽しくない」が5%でした。
現在、日本に暮らす外国籍住民は300万人程度、全人口の約3%を占めています[i]。校則などのルールを守り、「みんなが同じ=同質性の高い」行動が求められる日本の学校文化は、海外ルーツの子どもたちにとって、自分の母語とは異なる日本語で授業を受けることと並んで、ハードルの高い存在です。
授業は、今年3月、兵庫県の高校で、髪型を理由に卒業式から排除された生徒の話題から始めました。アフリカ系アメリカ人の親を持つ男子生徒が、髪の毛が耳にかかるのは校則違反だという指導を受け、それならば大切にしている自分の民族的アイデンティティーを示す髪型「コーン・ロウ(corn row)=写真を参照ください」でと、卒業式に臨んだのですが、高校生らしくない、清潔でないとされ、他の卒業生たちとは別に一人だけ遠くの二階席に座らされて、卒業証書を渡す順番になっても返事をするな、と言われたというのです。学校文化の強制が、自らの民族的出自を大切にしようとする、生徒の権利を奪ってしまった、残念な例と言わざるを得ません。
給食、遠足、運動会など、準備や参加方法に細かなルールが定められ、守らない生徒が排除されたり、制裁を受けたりするのは、日本の学校の特色です。今回の授業では「掃除当番」について、交流文化学科の一年生になったばかりの新入生の皆さんと一緒に考えてみました。
「掃除当番」の生徒が放課後に残って教室を掃除するのは、日本では見慣れた風景ですが、世界共通ではないようです。日本でも大学や職場の多くでは、清掃会社と契約して専門の清掃員に掃除をしてもらっています。学校で掃除をする習慣のない地域から来た子どもたちに、「居残りして掃除をする」義務を理解してもらうのは難しいこともあります。さらに、カースト制のある地域出身の子どもなら、「自分は掃除をしてはいけないカーストの生まれ」だ、と考える子どももいるかもしれません。「日本に来たのだから日本のルールを守って」という説明では、子どもの自文化への誇りや自己肯定感を傷つけてしまうでしょう。
授業では、学生たちに5-6人の小グループを作っていただき、役を決めて以下のセリフを含むスキットを演じていただきました。ある中学校のシーン、授業も終わり、帰りの会での出来事、という設定です[ⅱ]。
先生:
「今日はここまで。じゃあ今日の掃除当番はと…1班か、ちゃんと掃除して帰れよー。」
Eさん:
「すいません。私、掃除できないんです。」「私の国では掃除をする人が決まっています。私はその立場じゃないし、学校には掃除のために来てるんじゃない…」
Aさん:
「そうだったかもしれないけど!ここは日本なの。ルールは守らないといけないの!」
Eさん:
「でも…」
スキットを読んだ後のアンケートでは、もしあなたが担任教員だったら、Eさんに掃除をさせるが75%、させないが25%でした。各グループで話し合いをしていただいたところ、「郷に入れば郷に従え」といった意見もありましたが、まずクラスで話し合いをして、全員が納得できるルールを作るべきという声が多く聞かれました。また、以下のような主張もありました。
「先生がカースト制について説明した上で、みんなで話し合いをする。」
「Eさんに掃除以外の係(たとえば給食当番)に回ってもらうことで、公平な義務負担を保ちつつ、文化の違いを尊重する。」
「生まれた土地や宗教によって考え方は大きく異なると思うので、相手のバックグラウンドをきちんと知った上で相手の意志を尊重するべきだと思う。」
「むやみにルールを押しつけるのでなく、多数派がルールを変更することを含めて話し合いをすべき。」
授業ではもう一つ、勉強は頑張っているのだけれど日本語で苦労していて高校受験が難しいというスキットを同じように小グループで演じていただき、ディスカッションをしました。国際化が進み、留学や仕事で海外に出て行く人が大勢いる一方、日本に暮らす海外ルーツの子どもたちも増えています。「多文化共生」のかけ声が聞かれるようになって久しいですが、すべての子どもたちがそれぞれの母語や文化的アイデンティティーを大切にし、かつ日本社会で活躍していく環境が整備されているか、と問うと、残念ながらそうではありません。今、日本社会の中での「内なる国際化」が求められています。すべての子どもが幸福を追求できるよう、学校制度の見直しや予算面の整備も必要ですが、まず、私たちの意識を変えていくことが大切だと思います。(文責:高橋雄一郎)
今回の授業では、小グループを編成したり、ディスカッションが止まってしまったときの手助けに、3年生4年生の先輩(私のゼミ生)に参加をお願いしました。下の写真をご覧ください。スクリーンにはレスポンというデバイスを使って、受講生の質問や意見がリアルタイムで投影されています。
【補足説明】⇒manaba「参考資料」にも同じ文章を添付してあります。
教育を受ける権利について、国連の人権関連条約(どちらも日本政府訳)と日本国憲法の条文を比較してみましょう。
社会権規約(自由権規約とともに国連人権規約を構成する)
International Covenant on Economic, Social and Cultural Rights
(1966年国連総会で採択、1976年発効、1979年日本批准)
第13条
1. この規約の締約国は、教育についてのすべての者の権利を認める。締約国は、教育が人格の完成及び人格の尊厳についての意識の十分な発達を指向し並びに人権及び基本的自由の尊重を強化すべきことに同意する。更に、締約国は、教育が、すべての者に対し、自由な社会に効果的に参加すること、諸国民の間及び人種的、種族的又は宗教的集団の間の理解、寛容及び友好を促進すること並びに平和の維持のための国際連合の活動を助長することを可能にすべきことに同意する。
2. この規約の締約国は、1の権利の完全な実現を達成するため、次のことを認める。
a. 初等教育は、義務的なものとし、すべての者に対して無償のものとすること。
b. 種々の形態の中等教育(技術的及び職業的中等教育を含む。)は、すべての適当な方法により、特に、無償教育の漸進的な導入により、一般的に利用可能であり、かつ、すべての者に対して機会が与えられるものとすること。
c. 高等教育は、すべての適当な方法により、特に、無償教育の漸進的な導入により、能力に応じ、すべての者に対して均等に機会が与えられるものとすること。
[ⅰ] 2022年6月1日の「在留外国人統計(法務省出入国在留管理庁)」では3カ月以上の在留資格を持つ外国籍者が296万人です。それ以外にオーバーステイの非正規滞在者が約8万人。コロナ禍の入国制限が解除され国境を超える人の移動が再び活発になっているので、この数字はさらに増えていくと思われます。また、いわゆる国際結婚の家庭や海外から帰国した家庭では、日本国籍であっても日本語に不自由を感じる子どもも増えています。
https://www.e-stat.go.jp/stat-search/files?page=1&toukei=00250012
2023年4月15日閲覧
[ⅱ] グループ・ディスカッションで使用した教材は、多文化共生のための市民性教育研究会編著、『多文化共生のためのシティズンシップ教育実践ハンドブック』、明石書店、2020、pp.44-55、から採りました。