2022/6/30 - News&Topics
【教員新刊】卒業生との共著書が出版されました 北野収・西川芳昭編『人新世の開発原論・農学原論―内発的発展とアグロエコロジー』(農林統計出版)
学科卒業生2名も分担執筆した本です。卒業生の田村優さん(在アンゴラ日本国大使館専門調査員、中国農業大学博士)、宮下智衣さん(JICA嘱託職員、元NGO職員、タンザニア・ソコイネ農業大学修士)は、アフリカでの各々の研究成果を寄せてくれました。本学科で以前「食の文化論」を担当して下さったイタリア農業研究者の中野美季先生、学科講演会をしていただいたフランス出身のルロン石原・ペネロープさんほか、研究者・JICA専門員の方が執筆しました。全体編集は西川芳昭先生(龍谷大学)と北野です。以下、本書のキーワード3つを説明します。
人新世(ひとしんせい、Anthropocene):地球の地質年代の直近の時代のこと。かつては地球の環境変化に合わせてヒトを含めた生物・生命体が発達してきた訳ですが、現在は地球の環境の変化が人間の活動によって引き起こされています。親(地球)が子(人間)の立場が逆転して、子が親を変えてしまう。このような地球的認識・問題設定が重要になってきました。
アグロエコロジー(agroecology):agriculture(農業)とecology(生態系)を掛け合わせた造語。有機農業、環境に優しい農業という意味を超えて、自然生態系の一部としての人間活動(農の営み)のニュアンスをもつ概念。ラテンアメリカから世界へと展開してきた概念です。アグロエコロジーは食料主権(food sovereignty、政府や企業でなく、人々が食べ物を主体的に作り選ぶ権利)、世帯レベルでの食料安全保障、フードデモクラシーという現代的課題と深く関連しています。
社会的連帯経済(social solidarity economy, SSE):市場原理よりも人と人とのつながりを重視し、社会的・環境的な目的に力点をおいた経済活動のことです。ラテンアメリカの伝統的な連体経済とヨーロッパの「伝統」である社会的経済を掛け合わせた造語ですが、国連でも使われるようになりました。本書では、国際フェアトレード運動、有機農産物の提携運動、農福連携を含めた社会的農業(social agriculture)の取り組み事例が紹介されています。
以上を念頭に本書では、モザンビーク、ネパール、タンザニア、フランス、日本、イタリア、イギリス、カナダ、アメリカ、メキシコ、ラテンアメリカの様々な事例を取り上げました。競争原理に基づいたグローバル資本主義が世界を席巻する一方、現場発の小さな農的連帯=下からの「もう1つのグローバル化」も同時進行しています。
何よりも、卒業生と一緒に本を出すことができたことを喜びたいと思います。個人的には、還暦のよい思い出になりました。