2021/10/12 - DoTTS Faculty 教員コラム
マイクロツーリズムからみるコロナ後の観光(鈴木涼太郎)
新型コロナウイルスの感染拡大によって、ツーリズム産業は大きなダメージを受けました。海外からのインバウンド観光客は皆無となり、国内旅行も「不要不急の外出は自粛」ということで、大幅に減少することになりました。ツーリズム産業が回復する時期がいつになるのか、1年後?2年後?それとも…と様々な予測がされていますが、現時点で確実なことはわかりません。
一方で、コロナ禍であっても旅行したいと考えていた人が多数いたことは確実です。賛否両論を巻き起こしながら実施された「Go-Toトラベルキャンペーン」は、2021年1月に発表された観光庁の速報値によると、利用人泊数が約8,781万人泊、支援額が約5,399億円という実績を残しました。感染拡大が収束していない状況下においても、観光旅行を「不要不急」とみなさない人々もたくさんいた訳です。このような数字をみると、いずれ観光地が賑わいを取り戻し、ツーリズム産業が復活する時が来ることは間違いないでしょう。
コロナ禍のツーリズム産業で話題となった言葉の一つに「マイクロツーリズム」があります。 この言葉は、新型コロナウイルスの感染拡大直後に、高級宿泊施設の運営を手掛ける星野リゾートの社長、星野佳路氏が提唱したもので、比較的近距離の観光地を訪れる、いわば「近場の観光」を指す言葉として、ツーリズム関連産業で使われるようになりました。同社のウェブサイトでは、マイクロツーリズムが「知ってそうで知らない地元の魅力」を体験する「自宅から1〜2時間で行ける範囲の旅行」であり、「地域内観光」「地域の魅力の再発見」「地域の方々とのつながり」という3つの特徴を持っていると説明されています。しかし同社が扱っている商品の全てが3つの特徴を満たしているわけではありませんし、普及していくにつれて実質的には「近場の観光」を指す言葉になりました。
「近場の観光」といっても多様です。そもそも都市圏在住であっても車を使えば1~2時間で近郊の温泉観光地に行くこともできますし、普段から通勤通学している都心部の観光地や集客施設に行くことは簡単です。実際、東京近郊の熱海や箱根には、通常時ほどではないにせよ観光客が訪れていましたし、浅草は着物体験をする若い女性観光客で賑わっていました。普段より観光客が少なく閑散とした浅草では、SNSにアップする着物姿の写真も思い通りの画角でじっくり撮影することができるので、観光するのにかえって好条件ともいえるでしょう。結局のところ、マイクロツーリズムといっても、移動距離が短くなっただけで、これまで通りの観光と変わらないものといえるかもしれません。
また、「近場観光」ということで目立ったのは、いつもなら観光地やレジャー施設で行う活動を自宅やその周辺で行うことによって、観光気分を盛り上げようとする人々の存在です。たとえば、キャンプ場に行かずにバーベキューを自宅のお庭やベランダでしてみたり、近所の公園にミニテントを張ってキャンプ気分を楽しんだり。今でも、少し広めの公園に行けば、芝生広場にカラフルなテントがいくつも立ち並ぶ光景を目にすることができます。
そんな人々を眺めていると、観光とは「どこか遠くへ行く」ことだけではなく、近場であってもバーベキューセットやテントという道具、あるいは「着物」という衣装をうまく使えば「観光っぽいことをする」ことがいくらでもできるという気がしてきます。案外、コロナ禍による移動の制限は、我々が「観光に行く」ことが出来なくても、「観光する」ことが可能だということに気づかせてくれた、あるいは「観光する」技法をスキルアップさせてくれたのかもしれません。だとすると、ツーリズム産業は、コロナ禍からただ単純に「復活」するのではなく、コロナ禍で我々が身に付けたあらたな「観光する」技法に対応してバージョンアップする必要があるのではないでしょうか。