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2017/12/31 - News&Topics

課外授業 館林ロヒンギャ・コミュニティー訪問 2017年12月17日(その1)

トランスナショナル文化特殊講義・課外授業 2017年12月17日(その1)

(緊急報告)ロヒンギャ民族の迫害
12月17日、「トランスナショナル文化特殊講義(担当教員:高橋雄一郎)では、群馬県館林市に、ビルマ(ミャンマー)*のロヒンギャ民族コミュニティを訪ねる課外授業をおこないました。こちらのウエブサイトで、課外授業のもようを2回に分けて報告します。メディア報道などでご存知の方も多いと思いますが、初回(その1)は、ロヒンギャ民族が本国で大規模な迫害にあい、大変危険な状況にあることをお伝えします。

ロヒンギャ民族への迫害は、現在、人道危機のレベルに達しています。ビルマ(ミャンマー)国軍によって焼き討ちにあった村は300を超え、略奪、暴行、レイプなどの深刻な人権侵害を受けて、ほとんど着の身着のままで国境を越え、隣国のバングラデシュに避難した難民は、2017年8月25日以降、3か月という短い期間で、65万人を超えています(国際移住機関―IOM、2017年12月28日発表)。

(国際NGO「ヒューマンライツ・ウォッチ」の記事を2つ紹介します。衛星写真から300近い村が焼き討ちにあったことを分析するもの、その中の一つ、トゥラトリ村で何が起きたかを、証言をもとに再現したものです。)
https://www.hrw.org/ja/news/2017/10/17/310317
https://www.hrw.org/ja/news/2017/12/19/312813

(「国際移住機関=IOM」の英語版最新レポートは以下からダウンロードできます。)
https://reliefweb.int/sites/reliefweb.int/files/resources/2017-12-28%20-%20IOM%20Rohingya%20Crisis%20Response%20-%20External%20Sitrep.pdf

ロヒンギャ民族は、ビルマ(ミャンマー)西部ラカイン州に暮らす少数民族で、ビルマ(ミャンマー)国内の人口は110万人ぐらいと推定されていましたが、現在、その多くがバングラデシュに避難しています。ビルマ(ミャンマー)国外では、パキスタン(35万人)、サウジアラビア(20万人)、マレーシア(15万人)、など世界中に離散して暮らす、ディアスポラの民族です(数字はアルジャジーラ放送の推定による、2017年10月)。日本に住むロヒンギャ民族は250人ぐらいで、そのほとんどが、群馬県館林市周辺で暮らしています。

(カタールのドーハを拠点に世界に発信している放送局「アルジャジーラ」による以下の英文記事には、ロヒンギャ民族がビルマ(ミャンマー)西部、バングラデシュと国境を接するラカイン州に暮らしていること、ロヒンギャ民族が世界中に離散して暮らしているかを示す2枚の地図が添えられていて参考になります。)
http://www.aljazeera.com/indepth/features/2017/08/rohingya-muslims-170831065142812.html

ビルマ(ミャンマー)の総人口はほぼ5500万人で、多数派のビルマ民族がその7割近くを占め、残りはさまざまな少数民族で占められています。少数民族のうち大きな集団には、シャン(9%)、カレン(7%)、ラカイン(4%)、モン(2%)などがあります。より小さな民族集団も多く、政府は135の少数民族があると言っています(但し、政府はロヒンギャ民族の存在を認めていないので、ロヒンギャは135の中には入っていません)。宗教では仏教が87.9%、キリスト教6.2%、イスラム教4.3%です。

(人口、宗教パーセンテージの数字はアメリカ合衆国が発行しているCIA World Factbook, 2017によります。CIAも国名にミャンマーではなくビルマを使っています。)
https://www.cia.gov/library/publications/the-world-factbook/geos/bm.html

ロヒンギャ民族がイスラム教徒であることも、差別を受ける理由の一つです。イギリスの植民地だったビルマが1948年に独立した当初は、ロヒンギャ民族で中央政府の大臣を務めた人も複数いたのですが、1962年にクーデターが起きて軍事政権になると、ロヒンギャ民族への差別や弾圧が厳しさを増していきました。1970年代の終わりと1990年代の初めに、軍事政権による迫害に会い、その度に20万人規模の難民がバングラデシュへ流出しています。

その後、2010年にビルマ(ミャンマー)は軍事政権から民政移管するのですが、民政移管の前に、うわべだけ民主的なプロセスを装い、新憲法を制定しています。新憲法が軍の権力維持を狙っていることは明白で、たとえば国会議員の25%は選挙を経ず軍が任命することになっています。憲法の改正には国会議員の75%以上の賛成が必要なので、軍が賛成しない限り、憲法の改正はできない、ということになります。警察を掌握する内務大臣、国防大臣、国境管理大臣という重要なポストも、大統領ではなく軍の最高司令官が任命します。また、配偶者や子どもが外国籍の場合は大統領になれないことも憲法で定めらました。アウンサンスーチーは、亡くなった夫と子どもたちがイギリス籍なので、大統領にはなれません。選挙で選ばれた指導者でありながら「国家顧問」という不思議な役職にあるのは、軍事政権の定めた憲法の制約があるためです。

アウンサンスーチーと彼女の政党(国民民主連盟-National League for Democracy=NLD)は、軍の意向に逆らうことができない、というのが現在の状況のようです。アウンサンスーチーは、村々の焼き討ち、略奪、虐殺、レイプの組織的実行犯である軍を非難し、処罰することができていません。そして軍は、多数派であるビルマ民族、仏教徒の支持を頼んで、ナショナリズム的な感情を鼓舞し、ロヒンギャ民族を血祭りにあげようとしています。

1970年代、90年代に続いて、2012年に、ロヒンギャ民族に対する大きな弾圧が再び起きました。それ以降、奴隷商人のような悪徳ブローカーを介して、海上からタイ、マレーシアに脱出を試みるロヒンギャの人たちが増え、国際的な人権問題になりました。さらに2016年10月、2017年8月に、仏教徒ビルマ民族とロヒンギャ民族の間で衝突が起き、現在の人道危機へと状況が急速に悪化しました。

2017年8月25日にロヒンギャ側の集団がビルマ(ミャンマー)の警察を襲い、警官12名を殺害したことに対し、ミャンマー側は想像を絶する規模の報復をおこないます。「国境なき医師団」によれば、その後一か月間に虐殺されたロヒンギャ民族は6700人(その内、子どもが730人)、数十万人が難民となってバングラデシュに逃れました。

(「国境なき医師団」のレポートを伝える英BBC放送の日本語ニュースはこちらから)
www.bbc.com/japanese/42349182

(なお、9月にバングラデシュの難民キャンプに入った「国境なき医師団日本」会長、加藤寛幸さんのレポートを以下のリンクから読むことができます。)
http://www.msf.or.jp/news/detail/voice_3573.html

ロヒンギャ民族はビルマ(ミャンマー)軍によって虐殺され、残った人たちは難民となって国境を越え、バングラデシュ領内に入る以外に身の安全を確保するすべがありません。国連のゼイド・ラアド・アル・フセイン人権高等弁務官は、自分たちにとって不都合な民族集団を殺すか、追放してしまう「民族浄化」がおこなわれている、と主張しています。

(国連人権高等弁務官による民族浄化発言を伝える米CNNニュース、日本語版とオリジナルの英語版を以下のリンクから読むことができます。英語版の方がより詳しい記事になっています。)
https://www.cnn.co.jp/world/35107131.html
http://edition.cnn.com/2017/09/11/asia/rohingya-un-ethnic-cleansing/index.html

2017年8月の事件から4か月がたちました。国連機関や非政府組織(NGO)による支援が漸くバングラデシュ側から現地に届くようになり、水や食料の配布、緊急医療、難民キャンプの設営や衛生状態の改善などが始まっています。日本を含む国際社会は、ビルマ(ミャンマー)政府が直接・間接に手を下しているロヒンギャ民族への迫害をストップさせるため、あらゆる努力をすべきなのですが、現状はそうではありません。日本は、日本企業の投資先であるビルマ(ミャンマー)との経済関係を優先させるばかり、少数民族が虐殺されていることは、見て見ぬふりをしている、としか思えないのです。人が殺され、女性がレイプされ、子どもや高齢者などの弱い存在が見捨てられている、こうした状況を、私たちは許してはいけません。

11月にバングラデシュを訪問した河野外相は、国連機関を通じた15万ドル(約16億5千万円)の緊急支援を約束しましたが、日本政府には、金銭の提供だけでなく、問題の根本的解決のために、より積極的な役割を果たしてもらいたいものです。(文責:高橋雄一郎)

*1989年に軍事政権が国名をビルマからミャンマーに変更しました。「ビルマ」も「ミャンマー」もビルマ民族の国という意味では同じです。軍事政権を認めない国やメディアは国名変更後も「ビルマ」を使っていましたが、政権が民主化されたという認識から「ミャンマー」の使用が一般的になりました。しかし、この記事で書いたように、ビルマで依然として実権を握っているのは国軍です。国軍による支配に反対する意味で、この記事では国名をビルマ(ミャンマー)と表記しています。

都内でデモ行進をする日本在住ロヒンギャ民族の人たち(写真提供:在日ビルマ・ロヒンギャ協会)
在日ビルマ・ロヒンギャ協会による支援活動(バングラデシュ、2017年10月、写真提供:在日ビルマ・ロヒンギャ協会)
バングラデシュの難民キャンプにて(中央が長谷川健一さん、写真提供:在日ビルマ・ロヒンギャ協会)
日本政府の支援強化を求めて外務省を訪問する長谷川健一さん(右)とアウンティンさん(左、写真提供:在日ビルマ・ロヒンギャ協会)
2013年、ラマダン明けのイードと、在日ビルマ・ロヒンギャ協会の設立を祝う子どもたち(写真提供:在日ビルマ・ロヒンギャ協会)